統計検定 学習帳
Textbook

3級 教科書

3級は大学基礎レベル。4級で学んだデータの整理に、分散・標準偏差・確率分布・推定の考え方を加えていきます。「データのばらつきを数式で扱う」「ランダムさを確率で表現する」という、統計学の本格的な道具立てを身につける段階です。

目次

  1. 1 章 · 記述統計 ─ データを数値で要約する
    標本平均・分散・標準偏差を式で扱い、共分散と相関係数で 2 変数データの関係も読み取れるようになります。
  2. 2 章 · 確率と確率変数
    サイコロや袋から玉を取り出すような身近な試行を起点に、条件付き確率・独立性・期待値といった概念に進みます。
  3. 3 章 · 確率分布
    二項分布と正規分布という、3 級の山場となる 2 つの分布を扱います。
  4. 4 章 · 推定の入口
    標本から母集団の特徴を推し量る、推定の基本的な考え方に触れます。
Chapter 1

1 章 · 記述統計 ─ データを数値で要約する


§1.1

標本平均と分散・標準偏差

4 級では「平均」と「ばらつき(範囲・四分位範囲)」を扱いました。3 級ではばらつきを、もう一段だけ精密に扱う言葉 ─ 分散と標準偏差 ─ を学びます。これらは推定や検定など、統計学のあらゆる場面で土台となる量です。

標本平均

定義 ─ 標本平均

個のデータ に対し、 を標本平均という。総和の記号 は「足し合わせる」の略記。

は「」を短く書いたものです。3 級以降では数式表現が一気に増えるので、この 記号には早めに慣れておきましょう。

偏差と分散

ばらつきを「平均からどれだけズレているか」で考えます。各データ の平均からのズレを偏差といい、 で計算します。

ところが偏差をそのまま足すと、正と負がちょうど打ち消し合って必ず になってしまいます。そこで偏差を 2 乗してから平均をとります。これが分散です。

定義 ─ 標本分散

を標本分散という。偏差の 2 乗の平均で、データのばらつきの大きさを表す。

例題 1.1

データ の標本分散を求めよ。

: 平均は 。偏差は 、その 2 乗和は 。標本分散

標準偏差

分散はデータを 2 乗しているため、もとのデータと単位が合いません(例: 身長(cm)の分散は cm² )。そこで分散の正の平方根をとった量を使います。

定義 ─ 標本標準偏差

を標本標準偏差という。もとのデータと同じ単位でばらつきを表現できる。

例題 1.2

例題 1.1 のデータの標本標準偏差を求めよ。

: 。「平均 のまわりに、平均すると ぐらいの幅でばらついている」と読み取れる。

計算で便利な公式

分散の計算では、次の変形が手計算で重宝します。

「2 乗の平均から、平均の 2 乗を引く」と覚えます。 をそれぞれ 2 乗して平均し、最後に を引くだけなので、偏差を一つひとつ計算しなくてよく、暗算と相性が良いのが特長です。

標本分散と不偏分散(参考)

ここで紹介した分母 の量は標本分散と呼びます。一方、母集団の分散 を推定したいときには、分母を にした不偏分散 を使います。3 級では「データそのもののばらつきを記述するなら 、母集団の分散を推定するなら 」とおおまかに区別しておけば十分です(2 級で深掘りします)。

§1.2

共分散と相関係数 ─ 2 変数データを読む

ここまでは「ある 1 種類のデータ」だけを扱ってきました。実際には「身長と体重」「気温とアイスの売上」のように、2 種類のデータが対になって与えられることが多くあります。こうした 2 変数データの関係を測るための道具が、共分散と相関係数です。

散布図で関係を眺める

2 変数データ を平面上の点として描いた図を散布図といいます。散布図を眺めるだけでも、 が増えると も増える(正の関係)、 が増えると が減る(負の関係)、関係が見えない(無相関)、といった大まかな傾向はつかめます。共分散と相関係数は、この「見た目」を数値化したものです。

共分散

定義 ─ 共分散

2 変数データ に対し、 を共分散という。

符号で大きく性格が変わるのが共分散の特長です。

  • 正のとき: が同じ方向に動く傾向(正の関係)。
  • 負のとき: が逆方向に動く傾向(負の関係)。
  • に近いとき: 一方の増減が他方の増減と無関係(無相関)。

ただし共分散は単位の影響を強く受けます。たとえば身長を「m」で測るか「cm」で測るかで、共分散の値は 倍も変わってしまいます。「同じ符号の傾向」を見るには便利でも、「強さ」を客観的に比較するには使いにくいわけです。

相関係数 ─ 単位を消す

そこで、共分散をそれぞれの標準偏差で割って単位を消した量を使います。これが相関係数です。

定義 ─ 相関係数

を(ピアソンの)相関係数という。

相関係数 は必ず の範囲に収まります。値の意味は次のとおりです。

  • : 強い正の相関(右上がりの直線に近い)。
  • : 強い負の相関(右下がりの直線に近い)。
  • : ほぼ無相関(直線的な関係はない)。
  • 目安: で強い相関、 で中程度、 以下で弱い相関、と表現することが多い。
例題 1.3

ある 5 人の数学と物理のテストの点数が、それぞれ , , , , であった。相関係数 を求めよ。

: なので、数学と物理の点数には強い正の相関があると判断できる。

相関と因果は別もの

相関係数を扱う上で必ず押さえておきたい注意があります。相関があるからといって、因果関係があるとは限らない、ということです。

有名な例として「アイスの売上と水難事故の件数には強い正の相関がある」というものがあります。これは「アイスを食べると水難事故が増える」のではなく、「気温が高い日にはアイスもよく売れ、水遊びをする人も多くなる」という、共通の原因(気温)があるためです。こうしたものを擬似相関と呼びます。

相関係数はあくまで「直線的な関係の強さ」を測る道具で、原因と結果を区別する力はありません。データを見るときは、「なぜそういう関係が出るのか」をいつも一歩立ち止まって考えるクセをつけましょう。

§1.3

標準化 ─ 比較できる形に直す

「数学の 70 点」と「英語の 70 点」、どちらが優秀でしょうか? もし数学の平均が 60 点・標準偏差 10、英語の平均が 80 点・標準偏差 5 なら、答えは大きく変わります。異なるテストや異なる単位の値を、共通の物差しに乗せて比較するための変換が、本節で学ぶ標準化です。

標準化の定義

定義 ─ 標準化(z 変換)

データ に対し、 の標準化(z スコア)という。 はデータの平均、 は標準偏差。

標準化の中身を分解すると、次の 2 ステップを連続で行っていることがわかります。

  1. 平均を引く: ─ データの中心を に揃える。
  2. 標準偏差で割る: ─ ばらつきの単位を揃え、 単位がちょうど「1 標準偏差ぶん」になるようにする。

標準化したデータの性質

性質 ─ 標準化後の平均と分散

標準化したデータ は、必ず

を満たす(平均は 、標準偏差は )。

つまり、どんな単位・どんなスケールのデータでも、標準化を通せば「平均 0・標準偏差 1」という共通の物差しに揃います。これによって異なるデータどうしを公平に比較できるようになります。

例題 1.4 ─ 数学と英語、どちらが優秀?

ある人の点数が、数学 点(クラス平均 、標準偏差 )、英語 点(クラス平均 、標準偏差 )であった。どちらの科目で相対的によい成績だったか?

: 数学の z スコア 、英語の z スコア 。同じ 80 点でも、数学のほうが英語より「クラス内でずっと上位」だったとわかる(数学は平均から 2 標準偏差ぶん上、英語は 0.5 標準偏差ぶん上)。

偏差値 ─ z スコアを使いやすく

受験勉強で必ず登場する偏差値も、実は z スコアを少し変換しただけのものです。

定義 ─ 偏差値

を偏差値という。これにより、平均 ・標準偏差 の物差しでデータを表現できる。

  • 偏差値 50: 平均ちょうど(z = 0)。
  • 偏差値 60: 平均から 1 標準偏差上(z = 1)、上位 約16%。
  • 偏差値 70: 平均から 2 標準偏差上(z = 2)、上位 約2.3%。
  • 偏差値 40: 平均から 1 標準偏差下、下位 約16%。

「上位 16% / 2.3%」といった具体的な割合は、データが正規分布(後の章で学ぶ釣鐘型の分布)に従うときの目安です。テストの点数のような分布はおおむね正規分布に近いので、この対応表は実用上よく使われます。

本章のまとめ

ここまでで 3 級の記述統計の主要部分が出そろいました。

  • 1 変数の中心: 平均
  • 1 変数のばらつき: 分散 、標準偏差
  • 2 変数の関係: 共分散 、相関係数
  • スケール調整: 標準化 、偏差値

これらの道具は次章以降の確率変数・確率分布の話、そして 2 級以降の推定・検定でも繰り返し登場する基礎的な共通言語です。

Chapter 2

2 章 · 確率と確率変数


§2.1

確率の基本法則と条件付き確率

4 級では「同様に確からしい」を出発点に、確率を場合の数の比として求めました。3 級では、複数の事象が絡む状況をきれいに扱うための法則を整理し、3 級以降の主役となる条件付き確率を導入します。

確率の基本法則(復習 + 整理)

定理 ─ 加法定理

が排反()なら、

定理 ─ 余事象

。「少なくとも〜」型の問題で、直接数えるのが大変なときに威力を発揮する。

条件付き確率 ─ 「もし〜とわかったら」

「サイコロを振った人がこっそり覗いて、『偶数が出た』とだけ教えてくれた。さて、その目が である確率は?」 ─ 何の情報もないときの確率は ですが、「偶数だ」と知ってからの確率は です(偶数は の 3 通りで、そのうち は 1 通りだから)。このように 「ある事象が起こったとわかったうえでの確率」 を条件付き確率といいます。

定義 ─ 条件付き確率

事象 が起こったという条件のもとで、事象 が起こる条件付き確率を

と定める。

例題 2.1 ─ サイコロ

サイコロを 1 回振ったとき、偶数が出たとわかった。その目が である確率は?

: 「偶数」、 の目」とすると、

乗法定理 ─ 同時に起こる確率

条件付き確率の定義式を変形すると、「 も起こる確率」を求める式が得られます。

定理 ─ 乗法定理

例題 2.2 ─ もとに戻さない取り出し

袋に赤玉 3 個、白玉 2 個が入っている。1 個ずつ続けて 2 個を取り出す(もとに戻さない)とき、 個目が赤、 個目が白である確率を求めよ。

: 「1 個目が赤」、「2 個目が白」。。1 個目を赤と取った後、袋には赤 2、白 2 が残るので

独立事象 ─ 「条件を知っても確率が変わらない」

定義 ─ 独立

事象 が独立であるとは、 が成り立つこと。これは と同値。

が起こったと知ろうが知るまいが、 が起こる確率は変わらない」 ─ それが独立性の本質です。コインを 2 枚別々に投げる、別の人がそれぞれくじを引く、毎日のサイコロの目、といったケースは独立として扱えます。

例題 2.3

2 つの独立な試行で、 のとき、 も起こる確率は?

: 独立だから

全確率の法則とベイズの定理(さわり)

条件付き確率を使うと、有名な「全確率の法則」「ベイズの定理」が記述できます。3 級の試験では計算問題として問われることがあるので、形だけでも押さえておきましょう。

全確率の法則

互いに排反で全体を覆う事象 について、任意の事象 の確率は

で計算できる。

例題 2.4 ─ 検査の陽性率

ある病気の有病率が 、検査の感度(病気の人が陽性と出る確率)が 、特異度の補数(病気でない人が誤って陽性と出る確率)が のとき、無作為に選んだ人が検査で陽性となる確率は?

: 「病気」()、「病気でない」()、「陽性」とおく。

、すなわち約

ベイズの定理は「結果から原因の確率を逆算する」道具で、 という形をしています。例題 2.4 の状況で「陽性だった人が実際に病気である確率」を求めるのが、ベイズの定理の典型的な使いみち。これは準1級・1級の主要テーマでもあります。

次節では、こうした確率の枠組みの中で「数値をとる量」として扱う確率変数の話に進みます。期待値・分散がいよいよ「ランダムな量」に対して定義される、抽象度が一段上がるところです。

§2.2

確率変数と期待値・分散

前節までの確率は「事象が起こる/起こらない」を扱っていました。本節からは、もう少し抽象度の高い「ランダムな数値」 ─ 確率変数 ─ を導入し、その平均(期待値)とばらつき(分散)を考えます。

確率変数とは

定義 ─ 確率変数

試行の結果に応じて値が決まる変数を確率変数といい、 などの大文字で表す。 がとびとびの値しかとらないとき離散確率変数、連続的な値をとるとき連続確率変数という。

たとえば「サイコロを 1 回振って出た目」は離散確率変数で、 です。「明日の最高気温」は連続確率変数で、無限個の実数値をとります。3 級の中心は離散確率変数。連続版は次章の正規分布で扱います。

期待値

定義 ─ 期待値(離散の場合)

離散確率変数 がとり得る値を 、対応する確率を とする。 の期待値を

で定める。期待値は の「ならしたときの平均値」を表す。

例題 2.5 ─ サイコロの期待値

公平なサイコロを 1 回振ったとき、出る目 の期待値を求めよ。

: 。サイコロの「平均的な値」は となる( の中央値ではないことに注目)。

例題 2.6 ─ 賞金の期待値

ある宝くじは、当選確率 で 100 万円、外れ( 円)が確率 。1 枚あたりの期待賞金を求めよ。

: 円。1 枚 円で売られていれば、買い手の平均的な「儲け」は 円。逆に主催者は損をする計算になる(現実の宝くじはたいてい逆向き)。

分散

期待値だけでは「平均的にどのへんの値か」しかわかりません。「ふつうそこからどれくらいズレるか(ばらつき)」を測るのが、確率変数の分散です。考え方は記述統計の分散と同じく、「平均からのズレの 2 乗」の平均をとります。

定義 ─ 分散

計算には次の変形がよく使われます(記述統計と同じ形)。

例題 2.7

確率分布が のとき を求めよ。

: - - -

標準偏差

定義 ─ 標準偏差

を確率変数 の標準偏差という。

分散はデータを 2 乗しているため、もとの と単位が合いません。それを揃えるために平方根をとったものが標準偏差で、 と同じ単位でばらつきを語れます。例題 2.7 なら

線形変換 ─ $aX + b$ の期待値・分散

のように、確率変数を定数倍したり定数を足したりした新しい確率変数 を考えると、期待値・分散は次の規則に従って一気に計算できます。

定理 ─ 線形変換則

つまり「平均は同じ向きに動く」、「分散は定数 には影響されず、2 乗倍 で効く」。

例題 2.8

のとき、 の期待値と分散を求めよ。

: は分散には効かないことに注意。

この線形変換則は、次節の二項分布や正規分布の標準化、さらには 2 級以降の推定・検定の式変形でも繰り返し登場します。「期待値は普通の代数計算、分散は で割増し」と覚えておきましょう。

Chapter 3

3 章 · 確率分布


§3.1

二項分布

コインを 10 回投げて表が何回出るか。10 問の選択式テストで、当てずっぽうで何問正解するか。同じ試行を独立に何度も繰り返すとき、成功回数の分布として現れるのが本節の主役、二項分布です。

ベルヌーイ試行

定義 ─ ベルヌーイ試行

結果が「成功」「失敗」の 2 つしかない試行をベルヌーイ試行という。成功確率を ()とし、失敗確率は

コインを 1 回投げる(表 = 成功)、サイコロで 6 が出るかどうか(成功確率 )、ある問題に正解できるか ─ ぜんぶベルヌーイ試行です。これを 独立に繰り返したときの成功回数を とおきます。

二項分布の定義

定義 ─ 二項分布

成功確率 のベルヌーイ試行を独立に 回繰り返したときの成功回数 は二項分布 に従うという。確率関数は

なぜこの形になるかは樹形図で考えると見えます。 回中ちょうど 回成功する「並び方」は 通り、それぞれの並びの確率は 。掛け合わせて足したものが、上の式です。

例題 3.1 ─ コイン

公正なコインを 5 回投げて、表がちょうど 3 回出る確率を求めよ。

:

二項分布の期待値と分散

定理 ─ 二項分布の期待値と分散

のとき、

「平均は 試行回数 × 成功確率」「分散は 平均 × 失敗確率」と暗記してしまうのが楽です。直感的にも、コインを 10 回投げれば表は平均 5 回(= )、ばらつきは ぐらい、と納得できます。

例題 3.2

のとき、 を求めよ。

: 。標準偏差は

二項分布の形と正規分布へのつながり

二項分布の確率分布をグラフにすると、 が大きくなるほど 左右対称な釣鐘型(つりがねがた)に近づいていきます。具体的には が十分大きく も大きければ、二項分布は次節で扱う正規分布 で近似できる、ということが知られています(ラプラス・ド・モアブルの定理)。

05101520成功回数 kP(X=k)n=20, p=0.4平均 np = 8
図: $\mathrm{Bin}(20, 0.4)$ の確率分布。山の頂は平均 $np = 8$

この事実が「データ分析でよく出てくるあの釣鐘型(正規分布)」と「コインの試行(二項分布)」をつなぎます。次の 3.2 で、いよいよ正規分布そのものに踏み込みます。

§3.2

正規分布と標準化

「身長」「テストの点数」「測定誤差」 ─ 自然界や社会のさまざまな量は、データを集めると左右対称の釣鐘型のヒストグラムを描きます。この形を理想化したものが本節の主役、正規分布です。統計学のあらゆる場面に登場する、もっとも重要な分布のひとつ。

正規分布の形

定義 ─ 正規分布

確率変数 が次の確率密度関数に従うとき、 は正規分布 に従うという。

は分布の中心(平均、期待値)、 はばらつき(分散)。

式は複雑ですが、3 級では「 で中心が決まり、 で幅が決まる、左右対称の釣鐘型」とイメージできれば十分です。 が大きいほど、釣鐘の裾が広く・てっぺんが低くなります。

-3-2-10123z±1σ ≒ 68%±2σ ≒ 95%
図: 標準正規分布 $N(0,1)$。中心 ±1σ に約 68%、±2σ に約 95% が入る
なぜ釣鐘型になる?

「身長」「測定誤差」のように、たくさんの小さな独立要因が足し合わさって決まる量は、近似的に正規分布になります(中心極限定理)。この『多くのランダム要因の和』という構造が自然界・社会のあちこちで起きるからこそ、正規分布はあらゆる場面に登場するのです。

経験則(68 - 95 - 99.7 ルール)

正規分布で覚えておきたい便利な目安があります。 のとき:

  • から の範囲: 約 のデータが入る
  • から の範囲: 約
  • から の範囲: 約
例題 3.3

のとき、 となる確率を求めよ。

: 。区間 。経験則より約 、つまり

標準化 ─ 正規分布の主役技

定義 ─ 標準化

について、 とおくと、 は標準正規分布 に従う。

「平均を引いて標準偏差で割る」という変換、1.3 節で学んだ標準化と同じ式です。これによって、どんな正規分布も という共通の物差しに翻訳できます。標準正規分布表(あるいはアプリの 値計算)を一つだけ用意しておけば、ありとあらゆる正規分布の確率を計算できる、というのが標準化の威力です。

実務での使い方:外れ値検出

工場の品質管理では、製品の寸法を毎日測定し 値を計算します。 となるサンプル(=母集団の 0.3% 未満)が出たら「異常」のサインとして警報を出す、というのが管理図(control chart)の基本ロジックです。マーケティング分析でもユーザーの行動指標を で標準化し、「平均から外れすぎた異常顧客」を発見するのに使われます。

Python / R で正規分布の確率を計算する
from scipy import stats

# X ~ N(50, 10²) のとき P(X <= 60) を求める
mu, sigma = 50, 10
print(stats.norm.cdf(60, loc=mu, scale=sigma))   # 0.8413...

# z 値で確率を求める(標準正規分布)
print(stats.norm.cdf(1.0))                       # 0.8413...

# 上側 2.5% 点(95% 信頼区間で使う z 値)
print(stats.norm.ppf(0.975))                     # 1.9600

scipy.stats.norm と R の pnorm/qnorm が標準的な対応物。

例題 3.4 ─ 標準化を使った計算

のとき となる確率を求めよ。

: 。表より 、つまり約

標準正規分布表の読み方

標準正規分布表は、 ごとに並べた数表です。試験会場では持ち込み可なので、形式に慣れておきましょう。代表的な値は次のとおり ─ よく出るので暗記推奨。

  • ⇒ 両側合計
  • ⇒ 片側
  • ⇒ 両側合計

─ これらの値は次章の信頼区間や、2 級以降の検定で何度も登場します。最低限 は反射的に思い出せるようにしておきたいところです。

Chapter 4

4 章 · 推定の入口


§4.1

母平均の信頼区間

ここまでの章は「すでに分かっている分布があるとき、そこから何が起こりやすいか」を考える方向の話でした。本節からは逆向き ─ 「標本のデータから、未知の真の値(母平均)を推し量る」推定の入口を扱います。

母集団と標本

用語 ─ 母集団・標本

知りたい対象全体を母集団といい、その平均・分散を母平均 ・母分散 という。実際に調査して得られた限られたデータを標本といい、そこから計算した値が標本平均 ・標本分散

全国の高校 1 年生の身長(母集団)を全員測るのは不可能なので、500 人をランダムに選んで身長を測る(標本)。この 500 人の平均 から、未知の本当の平均 を推し量る ─ これが推定です。

標本平均の標本分布

定理 ─ 標本平均のばらつき

母平均 、母分散 の母集団から無作為に 個の標本を取ったとき、標本平均 について

が成り立つ。標本平均の標準偏差 を標準誤差(SE)という。

標本平均の期待値はちょうど母平均と一致します。「平均的にはちゃんと当たる推定量」ということ。一方、標本平均自体は標本ごとに揺れるばらつきを持ちますが、 を大きくするほどその揺れは縮みます( で割られているのがポイント)。

中心極限定理(さわり)

定理 ─ 中心極限定理

母集団の分布の形によらず、 が十分大きいとき、標本平均 は近似的に正規分布 に従う。

つまり、もとの母集団の分布が正規分布でなくても、たくさん集めた標本の平均は近似的に正規分布になる ─ これが中心極限定理。「だから標本平均は正規分布で扱ってよい」という、推定や検定の理論的な土台になっています。

n = 1n = 5n = 30(正規型)n が大きいほど、標本平均の分布は正規分布に近づく(中心極限定理)
図: もとの分布(n=1 一様)から標本平均をとると、n が大きいほど正規型に近づく
直感的には

1 回の試行は何が出るかバラバラでも、たくさん平均すれば「平均値は安定して真ん中に集まる」。これは私たちが日常的に「サンプル数が多ければ信頼できる」と感じる感覚そのものです。中心極限定理は、その『平均は釣鐘型に収束する』という事実を数学的に保証してくれる定理です。

母平均の 95% 信頼区間($\sigma$ 既知)

標本平均 を中心に、誤差 ぶんの幅を取った区間を考えます。

定義 ─ 母平均の 95% 信頼区間($\sigma$ 既知)

この区間が真の母平均 を含む確率は約

は標準正規分布で に相当する値(前節 3.2 で出てきた値です)。信頼度 に上げたければ の代わりに なら を使います。

-20(母平均)2推定値試行 #赤 = 母平均を含まない区間
図: 同じ母集団から標本を 18 回取り、95% 信頼区間を作った様子。約 1 本(=5%)が母平均を外す
「95% 信頼区間」の正しい解釈

「95% の確率で母平均がこの区間にある」と言いたくなりますが、厳密には間違いです。母平均は固定の数値で、確率的に動くのは『私たちが取る区間のほう』。正しくは「同じ手順で繰り返し標本を取って区間を作ると、その 95% は母平均を含む」という意味です。図の『赤い 1 本』が、たまたま外してしまった区間にあたります。

例題 4.1

母標準偏差 の母集団から の標本を取ったところ、標本平均 であった。母平均 の 95% 信頼区間を求めよ。

: 標準誤差 。誤差幅 。区間は

「真の母平均は、95% の信頼度で約 の間にあると考えられる」と読む。

信頼区間の正しい解釈

「95% 信頼区間に が入る確率は 95%」という説明は、厳密にはやや不正確です。正しくは「同じ手続きを多数回繰り返すと、得られる区間の約 95% が真の を含む」というのが信頼区間の意味です。

実用上はあまり気にせず「95% の信頼度で はこの区間にある」と読むことが多いですが、頭の片隅に入れておくと、検定の話に入ったときに混乱しません。次の 2 級では「母分散が未知の場合(t 分布)」「比率の信頼区間」「母平均の検定」など、推定・検定が一気に拡張されていきます。

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